彼女は実は男で溺愛で

 神妙な面持ちでいると、クククッと喉を鳴らした彼が拳を口元に当て話し出した。

「もしかして、気づいていない?」

「え、なにを、ですか」

「いや。こっちの姿で会うつもりはなかったんだ。仕事上、仕方なく。タイミング良くと言えばいいのか、君にもバレてしまったしね」

 これは自分はあの悠里ですと、言っているんだよね?
 そうは思っても、まだ理解が追いつかない。

「どう。『染谷さん』に会って。字が綺麗で、知的な、爽やかな好青年だっけ? がっかりしなかった?」

「えっ。あー!」

 私は知らなかったとは言え、本人にそんなことを。

 恥ずかしくて顔を真っ赤にさせ、声にならない文句を言いたくて口をパクパクさせる。

 でも、今の言葉で、やっぱり染谷さんは悠里さんなのだと確信する。
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