初恋してます。
蓮くんの妹は完治が凄く難しい病気だった。



七実ちゃんは3歳になり始めた頃から病弱な体になり、月に何度も病院へ行くことは珍しくなかった。



そして、入院と退院を繰り返す闘病生活は約1年も続き。



残された時間はもうあまりないからと医師に言われ、7月1日に退院の許可が降り病院から自宅に帰ってきた。



嬉しそうな顔をした七実ちゃんが誕生日ケーキの上に並ぶ4本のロウソクの火を吹き消そうとする瞬間の写真。



ケーキのプレートには“七実、お誕生日おめでとう!”と書かれている。




退院をした本当の理由をまだ何も知らされていない七実ちゃん。



亡くなる約1か月ほど前の写真。



自宅で撮った最後の写真。



蓮くんが撮った一枚のこの写真。



「もっと、たくさん写真を撮っとけば良かった……」と涙を浮かべながら視線を落とす蓮くん。



「妹は、病気に体を蝕まわれ。そして……、最期は……、最期は事故で亡くなったんだ」



「事故……?!」、思わず言葉を失って私は口元に手を当てた。



「8月、朝早くから車に乗って家族皆で出かけたんだ。向日葵畑を見に……。もう少しで目的地につくところだった。

がしかし、対向車線から妹がいる後部座席に向かって黒い車が物凄いスピードで直進してきたんだ。妹は、即死だった。本当に、一瞬の出来事で……。

俺はあの時、隣に居たのに……無傷で……無事で。俺、妹のことをこの両手で守ってやれなかったんだ」



まだもう少し時間が残されていた七実ちゃんの最期は無残な交通事故だった。



「俺……、未だに許せないんだ」



「……許せないって……?」私は蓮くんの顔を見た。



「ひき逃げ犯。……逃げたんだよ。事故を起こしたやつ。何食わぬ顔をしてさ──」



「それで、それから……、見つかったの?捕まったの、犯人は……?」



「いや。警察も長い間ずっと犯人を捜索しているんだけれど。それが、まだ捕まっていないんだよ……」



「直ぐに、捕まらない犯人も……いるんだね」



「今頃、どこで、何をしているんだろうな……あの犯人は──」と蓮くんが少し声を震わせて、軽く唇を噛み締めた。



「早く捕まると、いいね」



私は隣にいる蓮くんの顔を見上げた。



「そうだな、時効までに。捕まるといいんだけどな………──」



蓮くんが声を少し詰まらせた。

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