初恋してます。
・第九章
──あれから、半年後。
季節が移り変わり、雨上がりの水色の空に爽やかな風が吹きぬける9月の中旬。
ある日の昼下り。
自宅でまだ仕上がっていないパズルを完成に向けて私はお姉ちゃんと一緒に黙々と熱が入り、
パズルのピースを終始無言ではめている最中の時のことだった。
突然インターフォンの音が玄関の方で鳴った。
私は手を止めて「誰だろう?」とお姉ちゃんと顔を見合わせた。
驚くことに、突然何の連絡もなく松下先生が優衣お姉ちゃんに会いにやって来たのだった。
拍子抜けした表情のお姉ちゃん。
今頃、松下先生が突然どうして?一体、何の用事なんだろう?
この春、確か遠いところへ転勤をしたはずと聞いたような気がするんだけれど。
私は目を丸くして凄く驚いた。
それは、卒業式の2週間前の日に松下先生がお姉ちゃんと交わした約束を果たしにやってきたのであった。
──『……一緒にずっといたいと思っている。』
玄関先にいる松下先生は、真面目な顔をして「会いたくて、たまらなくなって。気づいたら、石田の顔が見たくて……。来てしまった」と少しはにかむ笑顔を見せた。
嬉しさのあまり大泣きをしたままのお姉ちゃんは松下先生の胸に飛び込むようにぎゅっと抱きついた。
「先生に、会いたかった。ずっと、会いたかった!……松下先生」
「──あの時、……俺が、石田の嘘を見抜けない人間だとでも思ったのか──」
「やっぱり、松下先生は凄いね。………松下先生、こんなバカな私を叱らないでね──」
お姉ちゃんが松下先生の顔を見上げた。
「……当たり前だろう」
松下先生とお姉ちゃんが暫くじっと見つめ合った後、2人の間に優しい笑顔が溢れていた。
まだ、周りの状況を驚きで飲み込めないでいる私は呆然としていた。
松下先生は一週間の特別休暇をもらい転勤先のフランスから日本へ一時帰国をしたのだった。
そう、お姉ちゃんの初恋の相手は松下先生だったのだ。
松下先生は、周りが驚くぐらい芸術に関しての知識は豊富で、しかも大学時代にフランス語を勉強していたからフランス語も堪能。
また、松下先生は多くの生徒達から慕われ評判も大変良く、学校の中では上位に入るぐらいの人気者。
それで、背が高くて、スタイルが良くて、黒縁眼鏡が良く似合う若くて格好いい先生で有名だった。
現在28歳になった松下先生は、当時の格好良さは今も何一つ変わることなく健在。
こんな松下先生だから笑顔を見せただけでキュンとした女子生徒達は数知れなかった。
また、休み時間になると複数の女子生徒によく囲まれている光景を目にしたこともある。