雪の降る日
春花は彼の名前も知らない。

大学一年生で……、甘いものが苦手で、テニスが得意で、割と負けず嫌いで、本人が言うには、たまにバカなことをする、らしい。

それから、雪の降る日に、この神社に来るということ。

春花が知っているのはこれだけ。

他愛ないつながり。出会いも偶然だった。

彼が、絶とうと思えば呆気なく絶たれてしまう、細い糸のような縁。

春花はきゅっとおしるこの缶を握りしめた。

「……あのさ」

彼が声を発したので、春花はそちらを向く。

「はい」

彼は春花に背を向けて、社の柱を指でなぞっていた。

「あのさ……」

言い淀んで、意を決したように、春花に振り向く。
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