愛していない
病めるときも彼は私を愛してくれました。

いつか彼が言ったのです。
君の幸せを望んでいるつもりで、望んでいなかったのかも知れない、と。
言わんとしていることは分かりました。
彼は、あの人とのことをきっと知っていた。
でも、私は聞こえないふりをして、私は幸せだよと答えました。

それが精一杯の気遣いでした。


今こうやってゆっくりと考える時間ができて思い返してみると、やはり私はあの人のことをとても愛しています。

過ごした時間は短かったけれど、キスもなかった仲だけれど。
あの人が今どうしているか知りません。
まだそんな歳でもないから元気でしょうか。
それとも若死にしているかも知れない。
それも、全部憶測に過ぎません。
ただ分かることは、私は未だにあの人を愛している。


でも、こうなってみて初めて思うこともあるのです。
私は彼を傷付けないように大切にしてきたと思っていましたが、本当に彼は傷付いていなかったのでしょうか。

ヤスリを使ってじわじわとずっと弱い力で削り続けているような、そんな傷付け方をしていました。
大切にしてくれるのに、愛されていない。
それがどんなに傷付くことか、私は分かっていなかった。
今も真の意味では理解できていないのかも知れない。


もう、そろそろ限界みたいです。
彼が階段を駆け上がる音が聞こえます。
でも、私は会わずにここを去ります。
誰にも看取られずに独り終わる私と、最期に立ち会えなかった彼は同じ傷を共有できるでしょうか。
その答えを私は知ることはありません。


彼がなるべく傷付かなければいい。
傷付けることを愛と信じた私ですが、
それもまた一握りの愛でした。


終わり
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