成り行きで結婚しましたが、わりと幸せです。
「いらっしゃい、綾ちゃんと・・・」

私が男を連れて来店したことに言葉が詰まる。

「綾ちゃん、おめでとう。イケメンじゃん」
「いや、あの、女将さん、彼氏じゃないですから。」

女将さんの勘違いをすばやく否定する。

「職場の先輩です。帰りがたまたま一緒で」

言い訳くさかったけど嘘ではない。

「奥、片付いてないけど使う?」
「ありがとうございます。」

お盆と台ふきを受け取り、カウンターに鹿瀬を残し、片付けに向かう。

「ありがとう。綾ちゃん」
「どういたしまして」

鹿瀬を引き連れて部屋の座敷に案内する。

「今日はすまなかった。橘に負けた気がして、心にもない事言ってしまった」

「もう、良いですよ。私の方こそすみませんでした。否定するの面倒くさくて否定せずに来たツケだと思うし」

しばらく沈黙が流れ、気を聞かせた女将さんが、ビールを差し入れてくれた。
こう言う気遣い流石だと思う。

「いい店だな」
「はい」

お気に入りのものを褒められるのは素直に嬉しい。
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