雨の滴と恋の雫とエトセトラ
 拓登は初めてだったので、自ら自己紹介していた。

「アキちゃんと千佳ちゃんはいつもご贔屓に友達連れて来てくれるから嬉しいね。ありがとね」

 ヒロヤさんは明彦にお礼を言う。

 益々、千佳と明彦はこの店のためにPR活動しているのだと確信した。

 でもいい店には変わりない。

 前日もそうだったが、ヒロヤさんは私達だとさりげなく割引きをしてくれ、それなりに千佳と明彦の知り合いと言うだけで恩恵は受けてる。

 愛想のいい笑顔で私達の前にメニューと水が入ったグラスを一緒に置いた。

 この時間にここに訪れるとお客は誰もいず、ほんとに商売が成り立っているのか不思議なくらい閑古鳥がいつも鳴いてそうな雰囲気が漂っている。

 しかし、常に掃除されていて隅々まで清潔感溢れ、ログ風の木のぬくもりが、コーヒーの香りと共に心を落ち着かせてくれた。

 人もいないことが貸切みたいで気持ちがよかった。

 私と拓登が隣り合わせに座り、テーブルを挟んで明彦が座るが、瑛太はその隣のカウンターのスツールに一人座ってこっちを見ていた。

 よそ様の店の中ということもあるのか、その態度はとても大人しくじっとしている。

 静かにしているが、じろじろと拓登を観察するように見ているのが、少し鼻についた。

 適当に飲み物を頼んだ後、明彦が初対面の拓登に話しかける。

 敵を作らない無垢なあどけなさで話されると、拓登も明彦のペースに流されていた。

 時々私にも話を降り、明彦が司会者のようになって私達から何かを話させようとしているみたいだった。

 それが明彦らしい話術でもあるのだろうが、なぜこんなことになっているのかいまいちしっくりと受け入れられなかった。

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