雨の滴と恋の雫とエトセトラ
 ヒロヤさんが、飲み物を運んできてすらっとした白くて細い指でそれをそれぞれの前に置いたとき、明彦は満足そうにヒロヤさんに笑いかける。

 その時、これはヒロヤさんのお店のためにつれてこられたんだと納得した。

 飲み物だけしか頼まなかったので、ヒロヤさんはサービスと言って丸いお皿にスナック菓子を乗せたものを出してくれた。

「嬉しいね。昨日も来てくれたのに、今日もまた来てくれて。これで常連になってね。この時間帯は空いてるからここで勉強会とかしていいよ」

「勉強会か…… それいいかも。ねぇ、瑛太」

 明彦が瑛太に振ると、瑛太はちょうど運ばれてきたコーヒーにミルクをつぎ込みながら「ああ」と簡素に答えていた。

 大人ぶってコーヒーを頼んだのかもしれないが、黙って大人しくしていると、普段より真面目に見えてくる。

 実際は捻くれ野郎だが、ここは明彦の顔を立てようとしているのかもしれない。

 一応礼儀というものは持ち合わせているようだった。

 それとも、この店の雰囲気がそうさせるのかもしれない。

 何度来てもヒロヤさんのお店は落ち着くし、このコーヒーのアロマも安定剤のように気分が和んでいく。

 高校生が歓迎され、お店のマスターと仲良くなれば特別な気分になってくる。

 ここで皆と楽しく過ごすのは秘密基地のような心をくすぐる魅力があった。

 しかし、勉強会が実現しても、瑛太と一緒に過ごすのは嫌だった。

 つい横目で瑛太を意地悪な目つきで一瞥してしまった。

「瑛太って、一見チャラチャラしているように見えるけど、学校では結構真面目なんだよ」

 メロンソーダーにストローを差しながら明彦は言った。

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