雨の滴と恋の雫とエトセトラ
 拓登も隣で聞き漏らさないようにとしっかり私を見てるし、そんな大昔の事で事を荒立てたくない。

「瑛太って大胆なことするんだね。だけど何を思ってそんなことしたの? 理由がなかったら小学一年生がそんなことするとは思わないんだけど」

 明彦は半信半疑で鵜呑みにはしなかった。

 さらに、明彦の言葉で私もふと疑問に思った。

 瑛太が私の頬にキスをしたとしても、なぜ、そのような事が起こったのか、私のあやふやな記憶が突付かれる。

 あの時、瑛太だけじゃなく周りには他の男の子達が数人居た。

 かなり騒がしく揉めていたような様子だったのは覚えている。

 その後に走ってきて、勢いで頬にキスをされた。

 その過程までにはそのような行動を起こしてしまう動機か何か理由があったはず。

 私もなんだかその時の背景を思い出しそうな気持ちになった。

 テーブルに向かって座っていた私達全てが、カウンタースツールに座る瑛太の方へと視線がいった。

 瑛太は三人から見られて、その時落ち着きをなくして視線が定まってなく宙を泳いでいた。

 瑛太の視線をしっかりと追ってみれば、その後瑛太は明彦を見て、私を見て、そして最後に拓登を見た。

 拓登も瑛太が何を言うのか慎重になって様子を伺っているのか瑛太から視線をはずさず、頭が固定されたままだった。

「理由だって? そんなものある訳……」

 瑛太の言葉が尻すぼみになっていく。

 私はその時違和感を覚えた。

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