雨の滴と恋の雫とエトセトラ

 ストローを持ったまま、俯いてグラスをじっと見ている私に、ヒロヤさんが水を注ぎにきた。

「なんだか、みんな青春してるね。いいな、若いって」

「ヒロヤさんだって、まだまだ若いですよ」

 常套句の言葉で返す明彦だったが、ヒロヤさんは確かに見た目はまだ若い。

「でもね、君たちと一回りは違ってるよ。この差は大きい」

 私達と一回り違うということは、ヒロヤさんは27,8くらいということになる。

 それでもまだ青年のように若々しかった。

 メガネを外せば、もっと若くみえそうなくらい、童顔な顔つきをしている。

 商売をしているせいかもしれないが、柔らかな物腰に愛想の良さがとても温和で全く角がなかった。

 白い細い指先でグラスを持ち上げ、水滴がついて冷たそうな銀色のピッチャーで水を入れていく。

 暫し、私はその作業を見ていた。

 特にピッチャーの水滴を見つめると、雨の日の思い出話をしていただけに記憶が突付かれたような思いだった。

 私達のテーブルが終わると、瑛太の方へと向いて同じように水を入れていた。

 その時、足元でペタンと何かが倒れた音が聞こえた。

 それは瑛太が本屋で買い物した時の袋だった。

 勢いつけて倒れたのか、中身が袋から滑って半分見えている。

 ヒロヤさんは、すぐさまピッチャーをカウンターに乗せると、すぐにかがんでその本を拾った。

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