雨の滴と恋の雫とエトセトラ
「足元あたっちゃったみたい。ごめんね。でも英検二級対策本ってすごいね。これ瑛太君の本?」

 瑛太は、その時見られてはいけないものを見られて困っているようにかなり慌てていた。

「あっ、はい」

 瑛太は受け取ると、私達の反応を気にするようにチラリとみて、すぐ本をしまった。

 私もその時、かなりショックを受けていた。

 瑛太がすでに英検二級の対策本を購入するなんて、負けたような気持ちになってくる。

 私はこの時一つランクが下の英検準二級を目指していた。

 英検二級なんて高校三年を卒業した英語のレベルで、一般の高校生が現役で合格するのはかなり難しいはず。

 一般の大人でも英語が得意じゃないと中々受からないと聞く。

 それなのに、もう高校一年生から対策を考えているなんて、何かの間違いじゃないかとさえ思う。

 まさか、すでに英検準二をパスした?

 急にライバル意識が芽生えて、瑛太に負ける事が悔しくなってくる。

 私はこの時、瑛太を見下していたことに完全に気がついてしまった。

 ふと自分の制服のブレザーを見ては、自分がどれほどこの制服に自惚れていたのかよく分かった。

 瑛太は何事もなかったように、すました顔をして、やり過ごそうとしていた。

「真由ちゃん、ね、瑛太って見かけによらず結構勉強家でしょ。だから、あまり瑛太のこと誤解しないでやってね」

「明彦、ただ本を買っただけで勉強家って決め付けるなよ。買ってきてって姉ちゃんに頼まれただけなんだから……」

「見え透いた嘘つかなくてもいいじゃない。瑛太は英語が好きなんだから」

 私をやりこめるために利用しようとした明彦に突込みを入れられ、瑛太は反対に自分が窮地に追い込まれた気分でいるようだった。

 別に隠すことでもないのに、私は負けたくないという気持ちから少し気が荒立っていた。

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