雨の滴と恋の雫とエトセトラ
 奥の方へと足を踏み入れると、電話を終えたヒロヤさんもでてきて「あっ、トイレだね。ここだよ」と丁寧に教えてくれる。

 さっきまで色んな感情が渦巻いていたが、ドアを開けて中に入るとほっと一息つけた。

 清潔なお店だけに、トイレも工夫を凝らした装飾でとても奇麗で落ち着く。

 男一人で切り盛りしている店なのに、花を飾ったりと細やかな気配りがすごいと素直に感心した。

 ヒロヤさんのこともどんどん気になるし、また、瑛太の知らなかった部分が現れて落ち着かなくなるし、明彦と知り合って千佳の弟なだけに親近感が湧いて邪険にできないし、色んな感情が一気に出てくる。

 拓登は物静かに座ってるだけだったのが、なんか無視したみたいで、なんだか申し訳なくなる。

 一緒に帰ろうと誘ってくれたのは拓登だったのに、色んな邪魔が入っておかしな方向へと流れてしまった。

 一通りすませた後、洗面所で手を洗い、さりげなく自分の身だしなみをセットする。

 自分は皆にどう見られているのだろうか。

 拓登に声を掛けられ、瑛太に絡まれ、そして過去の事を穿り出されて、さらに輪が広がっていく。

 自分の中の色んな感情が渦巻いて、自分でも自分の存在がどうあるべきなのか分からなくなっていく。

 いつまでこんなゴタゴタが続くのだろうか。

 雨が降って、傘を貸してから全てが始まったようにも思える。

 まだ足元はぐちゃぐちゃしているような気分だった。

 トイレから出てきたとき、瑛太がテーブル側に近づいて拓登と話をしている。

 それを見たとき、この日の朝、一緒に二人が電車に乗ったことを再び思い出した。

 しかし、このときもまた新たな違和感を感じた。

 なぜなら二人は笑っているように見えたからだった。

 その二人の様子は、私の目から見たらすでに仲良くなっている感じがした。
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