雨の滴と恋の雫とエトセトラ
 今でも充分、ドキドキして気持ちが高まっているけど、まだ恋に不慣れな私はこういう状態でも満足だった。

 拓登が自分の事を見て欲しいと言ってる限り、私達は次に進むという事を信じて、恋に向かって行くレールをお互い進んでいるのかもしれない。

 そんな風に感じていても、やはり時々拓登の陰りを帯びた表情をみると、不安も時折出てくる。

 まだ拓登は私がミーハー的な要素を持った信用置けない部分をもってると思っているのだろうか。

 だからそれを払拭するためにも、私は拓登が好きに見ればいいと自分の嫌な部分も隠さないことにした。

 もしその嫌な部分が全面的に目についたら、もう仕方がないけど、正直になればそこも含めて認めてくれるかもしれない。

 そんな風に思うのは幻想に過ぎないのだろうか。

 あれこれ考えても仕方がないし、なるようになるしかないのなら、私は私のままでいるしかない。

 結局はそうすることしかできないのだから。

 ありのままの自分。

 そう自覚することで心の中も穏やかになり、肩の力を抜いて拓登に思うままに話しかける。

 だから話題にしたくないことも敢えて言ってみる。

「なんか、また瑛太が現れたりして」

 そろそろ自分たちの駅に着く頃、電車に一緒に揺られながら、冗談とも本気ともとれるように言った。

「そうだね。いつもタイミングよく現れるからね」

 拓登も面白半分、恐れ半分と辺りを見回して答えていた。

「別に現れてもいい。だけど、瑛太って、本当は私達と同じ高校を目指してたんだって。受かってたら一緒に通学してたかもね」

 拓登は小さく「そうだったのか」と呟いた。

 それは残念そうな、お悔やみを聞いたような悲しげな態度だった。

 正直どうリアクションしていいのかわからなかったのだろう。

 私もあまり人に言ってはいけないことだったのかもと、つい軽はずみな事を言ってしまって後悔した。

 お互い、少し黙り込んでしまったが、拓登が機転を利かした。

「僕は多分ギリギリで受かったかもしれない。だからこそ一生懸命勉強しなくっちゃ」

「私もうかうかしてられないと思う。やっぱり授業について行くのは大変。周りの人たちが勉強家だと、やっぱりなんか苦しいものがあるかも」

「それは言える。僕のクラスもできる奴はほんとすごいんだ。そいつらを見ると焦るよね」

 拓登は気を遣って笑ってくれたことで、少しほっとした。

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