雨の滴と恋の雫とエトセトラ
「そうそう、あの阿部君。さすがお母さんが先生だから、頭がよかったよね。だから、中学は名門の私立に受験して受かったんだっけ」

「それじゃ、学校が違ってもその二人はまだ仲がいいのかな?」

「さあ、それはどうだろう。私も小学生の事はあんまり覚えてない。阿部君だけはお母さんが先生っていうだけで、印象に残って、たまたま池谷君が側にいたなって感じにしか記憶にない。だからこれは勘違いかも。でも一応は阿部君に聞いてみたらいいんじゃないの?」

「えっ、小学校卒業以来、会った事もないし、話したこともないし、いきなり連絡なんてできない。どこに住んでるかも分からないし」

「直接小学校に行ってお母さんに会って息子さん元気ですかって聞いてみたらいいじゃない?」

 萌は他人事だと思って簡単に言ってくれるが、私にはかなりハードルが高かった。

 萌に一緒に行って欲しいとお願いしても、私に男の影を見て取るや、自分で解決しろと少しきつくなった。

 多少の嫉妬心も紛れて、私が二人の男から言い寄られているのが少し気に食わないところなのかもしれない。

 全てを話してしまったのはちょっとまずかったかなと思ったが、ここまで調べてくれただけでも有難いのは分かってるので、充分萌には感謝の気持ちを伝えた。

 電話を切った後、押入れにしまってあった小学校の卒業アルバムを引っ張り出した。

 阿部君の顔を探していたら、阿部君と同じクラスに瑛太も居た。

 さすがに小学生の瑛太はまだガキっぽさが残っていて、あどけなかった。

 その顔を見ていると、うっすらと小学一年生の頃の瑛太を想起した。

 面影はそのままに、さらに幼く無邪気で悪ガキっぽい風貌の瑛太がなんとなく想像できた。

 小学一年生の頃の記憶なんてないに等しかったが、唯一覚えていることを考えてみた。

 理科の授業で朝顔の種を植えたこと。

 これは私のが中々芽がでなくて、すごく不安だったから覚えていた。

 あぶり出しの実験で学校に果物をもっていったこと。

 これは班の中で誰が何の果物を持ってくるかでじゃんけんで決めて、負けてしまって柿に決まったのが嫌だったので記憶にある。

 私はみかんを持っていきたかったんだった。

 忘れていたはずの記憶がふと蘇ってきた。

 そういえば、図工の時間に絵を描いてて、誰かにいたずら描きされて泣いたこともあった。

 どれも嫌な事ばかりが残っている。

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