雨の滴と恋の雫とエトセトラ
 卒業生という事を強調し、阿部先生に会いに来たと話せば、恩師だと思ってくれて、すぐに阿部先生に会うのはそんなに難しくなかった。

 阿部先生が姿を現したときは、私を見てキョトンとしていたが、私の制服でどこの高校生かすぐにわかったみたいで、変なことではなさそうだとすぐに安心した表情になっていた。

 自分の名前を言ってもピンとこないまま、阿部先生は私の事はあまり覚えてなさそうながらも、笑顔だけは絶やさずに始終温かく接してくれた。

「そうだったの。うちの茂と同学年で、小学一年の時同じクラスだったの。倉持さんっていったわね。ごめんなさいね、私は覚えてなくて」

「いいんです。先生は受け持たれていた学年が違いますし、直接私もお話したことはなかったから、仕方がないです。たまたま、阿部君のお母さんが学校の先生だったから、それでまだいらっしゃるか半信半疑だったんですけど、お会いできてよかったです」

「それで、茂に聞きたい事があるらしいけど、何かしら」

「すみません。たまたま小学一年の時の想い出に疑問があって、それを調べていたら、阿部君のことを思い出したんです。阿部君は池谷瑛太と仲がよかったと思うんですが」

「ああ、池谷君ね。そういえば時々遊びに来ていたわ」

「やっぱりそうですか。じゃあ、二人は仲がよかったんですね」

「そうね、でも中学に上がるころには学校が違うからそれからは会う機会も少なくなったみたいだけど、でも連絡はたまにあるんじゃないかしら。茂に聞かないとわからないけど」

「あの、直接阿部君とお話はできないでしょうか」

「別にいいと思うわよ。でも池谷君とうちの茂がどうかしたの?」

「いえ、その、当時のあることで、どうしても気になる事があって、その時の証人を探しているというのか」

「あら、なんだか事件の解決をしようとする刑事さんみたいね」

 私は苦笑いになってしまった。

 私の頬にキスした犯人を捜しているなんて、先生には言えない。

 私は予め用意していた、自分の電話番号とメールアドレスを書いた紙を先生に渡した。

 それを先生は受け取って、息子に渡すからと快く承知してくれた。

 訪ねた日のその夜、本当に阿部君から電話がかかってきた時は、すごく嬉しく思う反面どこか落ち着かなかった。

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