雨の滴と恋の雫とエトセトラ
「ん? どうしたの?」

「あっ、その」

「何か電話では言い難い話じゃないのかな。僕も大体何を聞きたいのか分かってきたよ。雨の日のことだろ」

「えっ!」

「あのさ、僕、一度倉持さんと会いたいんだ。だから会って話さないかい?」

「あっ、はい」

 勢いで返事してしまった。

「よかった。倉持さんと会えるなんて光栄だな。小学生以来だもんね」

 急に阿部君の声が明るくなった。

 それから、スケジュールを調整するからと、普段勉強で忙しい事をアピールされて、そして会う日にちは後日メールで伝えるからと言ってそして電話は切れた。

 終わった後ではあっけなかったが、私は自分の記憶を明確にする鍵になる人を探り当てたのではないだろうか。

 阿部君に会えば、充分自分が聞きたい事が聞けるような気がしてくる。

 しかもこの話の流れでは阿部君があの時の犯人の可能性が高くなってきた。

 瑛太はあの時、キスをしたのは同じクラスで、そして瑛太の親友で、未だに連絡を取り合ってる人だと言っていた。

 阿部君のことが大いに当てはまってくる。

 そうすると、私の事をまだ好きで恋心を抱いているという話が浮上してきた。

 まさか──。

 色々と頭の中でぐるぐるとしてくるが、会って話を聞くまでは確かなことではない。

 会う日がいつになるのか。

 それを待っていた数日後、阿部君からメールが入った。

 大型連休の前の金曜日の夕方、地元の神社で六時に待っているということだった。

 あまり人気のないひっそりとした神社で待ち合わせなくてもと思ったが、お互い地元なのでそこが一番無難だったのだろう。

 阿部君にわざわざ来てもらうから、待ち合わせ場所に文句は言えなかった。

 その時、阿部君の口から何が飛び出すのか、私は何を聞いても驚かないと覚悟を決めた。

 その約束の日が近づいてくる。

 やっとこれですっきりできるような気持ちになって、一つ問題が片付く気分でいた。

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