雨の滴と恋の雫とエトセトラ
 再びその傘を差して外に出たとき、彼は私の家の前で居心地悪そうに突っ立っていた。

「あ、あの……」

「あっ、その、気になさらないで下さい。遠慮はいりませんし、家がここなので、使い終わったら、適当にこの門にでも引っ掛けておいて下さったらいいですから。それじゃ私、ちょっと急ぎますので」

 条件反射で頭を下げ、早足でその場を去ろうとして、背中を向けたその直後、「ありがとう!」と声が返ってきた。

 また私が振り返ると、彼は私に笑顔を向けた。

 とりあえず再び頭を下げて、お愛想程度にそれに答えたけど、実際どうしていいのか戸惑いながらも、うやむやにその場を濁して私は早足に先を急ぐことにした。

 貸してから傘が赤色だったことを思い出し、あれでよかったのだろうかとぼんやり考えながら、腕時計で時間を確認すると、それどころじゃなくなり、足が急に慌てだした。

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