雨の滴と恋の雫とエトセトラ
 その時は彼に関してはなんとも思わず、後に傘を貸した事も忘れてしまった。

 夜、家に戻ってから、彼が律儀に傘をその日のうちに返しに来たことを母から聞いて、また思い出した程度だった。

 母はニヤニヤしながら私に質問する。

「なかなかかっこいい男の子だったけど、知り合い?」

 かっこいい?

 雨と傘に気をとられて、あまり彼の顔を見ていなかったのであやふやなイメージしかなかった。

 でも入学式の時、山之内君の顔をチラリと見て、どこかで見た顔だと不思議に思っていたそのとき、傘を貸した人だと突然脳裏に蘇った。

 まだ面と向かってお互い顔を見合わせた事はないけど、きっと山之内君もまさか傘を借りた本人が同じ学校にいるとは思ってないだろうし、私の事には気がついてない様子に見えた。

 隣のクラスだし、滅多に会うことも話すこともないから、不意に廊下ですれ違っても傘を貸したという記憶は薄れてしまって、結局はお互い面識がないような感じだった。

 その方が私も楽。

 変に話をしたり挨拶したら、あれだけ目立つ人だから女子からは意地悪されそうだし、こっちも変に気を遣って疲れそう。

 かっこいい人だとは思うけど、私には関係ないと思うところがあった。

 でも、そう思い込もうとしてたかも──。

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