雨の滴と恋の雫とエトセトラ
「ここで何をしてるの?」

「いや、その、ちょっと人を待っていて……」

 まさか自分を待っていてくれたとか?

 いやいやいや、そんなことはないだろうと思いつつ、平常心を装いながらも、私服姿の山之内君を間近で目にすると胸がドキドキと高鳴っていくのは止められない。

 私は何をそんなに意識しているのだろうと自分らしくない態度に戸惑ってしまった。

 落ち着かない私の様子が伝播したのか、山之内君もコホンと喉を鳴らしてその場が一層ぎこちなくなった。

「偶然、倉持さんの姿が見えたから、つい声を掛けてしまったんだけど、迷惑だったかな」

 山之内君は遠慮がちな態度を取り、語尾も最後弱くなったが、私の反応を気にするようにじっと見つめていた。

「迷惑じゃないけど、急に声を掛けられてびっくりして」

 お互いの様子を見るぎこちない態度だったが、山之内君はその時にっこりと笑顔を見せた。

 その笑顔に釣られて私も笑うと、お互いほっとするような安堵する空気が流れたように思えた。

 それが功を奏して、山之内君はその空気の流れに乗り、すぐさま本題に入った。

「だけどちょうど良かった。今ちょっと話せる?」

「も、もちろん」

 一体何を山之内君は話したいのだろうか。

 気になっていたことだけに、より一層胸の高鳴りが激しく音を立てたように思う。

「あのさ、昨日会ったあの男だけど」

「えっ、あっ、池谷君のこと」

 何気に感情を抑えて言ってみたものの、やはり池谷君の事を気にしていたと知るや内心落ち着かなかった。

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