雨の滴と恋の雫とエトセトラ
「よっ、倉持じゃないか。こんなところに突っ立って何してんだよ」

 池谷君だった。

 またややこしいのが来てしまった。

 喫茶店で会ったときは借りてきた猫のように大人しかったのに、なぜ今は水を得た魚のように生き生きとして活動的なのだろう。

 お願いだから、あまり掻き回さないで欲しい。

 ただでさえ、今、あんたの事を話していただけに、このタイミングで来られるのはイライラしてしまう。

 私は早く帰ってと懇願する思いを込めながらキッと強く池谷君を見た。

 そんなことしても全く無駄だった。

 却って池谷君は状況をすぐに飲み込み、帰る気がない意志を私に知らせるように、何かを企んでいるようなニタついた笑みを浮かべた。

「えーっと、こいつが山之内君だね。どうも」

 馬鹿、こいつって言うんじゃない。

 私は思わず池谷君を睨んでしまった。

 そんな私の態度など気にせず、わざとらしく山之内君に微笑みかけ、そして右手を差し出していた。

 山之内君は戸惑っていたが、差し出された手を拒めずに、恐る恐る握手を交わしてしまう。

 池谷君は山之内君の手を強く握っては、ブンブンと大きく上下に揺らしている。

 山之内君の顔はどこか引き攣っていたが、敢えてされるがままになって様子を見ていた。

「俺、池谷瑛太。よかったら瑛太って呼んでくれ」

 山之内君は圧倒されたまま、池谷君を見つめるだけだった。

「倉持も、俺のこと瑛太って呼べよ。そしたら俺も真由って呼ぶから」

「ちょっと待ってよ、なんで池谷君に呼び捨てにされないといけないのよ」

「何言ってんだよ。俺たち、一線を越えた中じゃないか」

「ちょっと、それどういう意味よ。変なこと言わないでよ」

 私は思わず山之内君の顔を窺う。

 山之内君は呆然として、池谷君を見ていた。

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