雨の滴と恋の雫とエトセトラ
「ちょうどいいから、山之内君にも聞いてもらおう。俺、小学一年の時、真由の頬にキスしたんだ。そんでそれを思い出して、昨日、また頬にキスをしちゃったよ。なっ、真由」

「ちょっと、待ってよ。それって、無理やりってことでしょ。はっきり言って犯罪よ!強制わいせつ!」

「おいおい、そこまでいうか」

 私が喧嘩腰になっていると山之内君はびっくりした表情をしていた。

「小学一年の時に頬にキス? そして昨日も?」

「だ、だからそれは、ちょっとした事故で、無理やりで私は望んでなかった」

 こんな事をばらされて泣きたくなってくる。

 山之内君も唖然として、口をぽかんと開けていた。

「小学一年の時と昨日、本当に池谷君が、倉持さんにキスをした?」

「おいおい、瑛太でいいって言ってるだろ。遠慮すんな」

「ちょっと、瑛太! いい加減にしなさい」

 私は腹が立ち、冷静になれなくなって自然と瑛太と呼び捨てにしてしまった。

 キスのことは山之内君にはやっぱり知られたくなかった。

 この時、私は山之内君のこと完全に意識してることに気がついた。

「あっ、もしかして山之内君、ヤキモチ焼いてるのかな」

 瑛太は悪役のキャラクターのようにニタついて山之内君をコケにしている。

「瑛太、いい加減にして。あんたね、一体何を考えてるの。その態度、山之内君に失礼でしょ」

「山之内君に失礼? はぁ? 失礼なのはどっちさ。昨日は俺が現れても何も確かめずに勝手に走り去って帰っていってさ、それで今日になって俺のこと真由に聞いてるんだろ。言いたい事があるんなら、すぐに言えばいいじゃないか。黙って見てみぬフリしてる方が失礼さ」

 瑛太は鋭い目線を山之内君に突きつけた。

「黙って聞いてたら、言いたい放題なんだね…… 瑛太」

 山之内君がとうとう我慢できなくなって落ち着きながらも、どこかで凄みをかけた声を出した。

「おっ、俺の名前をやっと呼んでくれたね。そう来なくっちゃ。それじゃ俺もあんたの名前を呼ばせてもらおうか。なんて呼べばいい?」

「拓登(タクト)だ!」

「拓登か」

 瑛太は鼻で笑って、挑戦的な目を向けた。

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