瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
「冷えているな、風邪をひく」

 まさか心配されるとは思ってもみなかった。レーネは声を振り絞る。

「起こして……ごめん」

 よほど声色が神妙だったからか、ゲオルクは苦笑してレーネの頭を撫でた。レーネはうつむいて顔を上げようとしない。

「べつに元々あまり深く眠らない方なんだ。むしろ久しぶりによく眠った。お前がそばにいてくれたおかげだな」

 優しい言葉が、今はすべて(えぐ)られるような痛みに変わる。密着し相手の心音を直接聞くと、胸が張り裂けそうになった。

 もうこれ以上、彼のそばにはいられない。

 どちらにしろ神子の命はあと数年だ。やはり自分は普通の人間ではない。こうして一緒に眠りにつくことさえできない。

 左目を隠し素性も明かせないままなのも、もう限界だ。ゲオルクが探ろうとしなくても、どこかで情報は漏れる。

『彼が神子さまを大事にするのは当然です。あなたの力でここまで来たのですから』

 ふとカインの言葉が蘇り、レーネは顔をしかめた。ゲオルクが自分を求めた理由は、この際なんでもいい。レーネが消えたらゲオルクはきっと目を覚ます。

 私がいなくても彼は王になり、相応しい……それこそ普通の女性を見つけるわ。

 さっきから胸が痛むのは、自分の願いが叶えられないからなのか、目的を達成できない不甲斐なさからなのか。

 わからない。どうしてこんな気持ちになるの?

 抱きしめられている腕の力が強く、しばらくは抜け出せそうにない。離してほしくて、離さないでほしい。相反する感情が揺れ動く。

 たくさんの人生を経験し、記憶と知識を蓄積してきたが、こんな複雑な思いを抱くのは初めてだった。
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