瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
「ずっとあなたが不思議でした。それなりの身分ある家の出なら素性を隠し通すのは難しいはずだ。かといって普通の村娘にしては知識量が莫大すぎる。天使か悪魔の化身を疑うほどに」

「それで私はどちらだったのかしら?」

 平静を装ってレーネは切り返すが、ペッツァーは眉ひとつ動かさない。

「ある筋から情報を頂きましてね。あなたは神子と呼ばれ、神の力を得た特別な存在なのだと」

 あまりにも正確な内容に、さすがのレーネも狼狽の色を浮かべる。そこでカインに最初に言われた言葉が頭を過ぎった。

『しかし、一定数あなたが神子ではなくなると不利益を被る存在がいる。彼らは反対するでしょう』

 レーネは奥歯を噛みしめた。神子を探しだし、村に連れ戻すために情報を漏洩(ろうえい)した者がいても不思議ではない。

「いささか信じられない話ですが、あなたの人間離れした力を目の当たりにして確信したんです」

 夢物語で流すには、レーネは長居しすぎ力を見せすぎた。一度向いた疑惑の目はそう簡単には逸らせない。

 それを表すかのようにペッツァーは鋭い眼差しをレーネな向けたままだ。不穏な空気に徐々に人が集まりだし、レーネの背中に嫌な汗が伝う。

 なんとかこの状況を脱さなければ。

「何事だ!?」

 ざわめきだした場によく通る声が響き、人々の注目はそちらに向いた。

「ペッツァーこれはどういうことだ?」

 現れたのはゲオルクで不快感を露わにし、眉間に皺を寄せて現状を問う。レーネの心臓はよりいっそう早鐘を打ち出していた。
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