瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
「ゲオルク殿、非常に申し上げにくいのですが、彼女はあなたの信頼を裏切り、ずっと騙していたのです」

「なにを……」

 ふたりの会話がただレーネの耳を通り過ぎていく。自分の鼓動の大きさが邪魔をして、話の中身が入ってこない。

 頭が回らず、痺れを伴って痛んでいた腕の感覚が薄れていく。

「彼女はあなたに呪いをかけようとしていたのです。短剣で心臓を刺すという野蛮な行為で」

 その言葉にゲオルクとレーネ、それぞれの目が大きく見開かれる。過激な内容に人々はまた口々に好き勝手なことを漏らしだす。まさに今の状況は見世物だ。

 ペッツァーはゲオルクに歩み寄り、彼を説得する構えをみせる。

「呪いの内容も彼女の狙いも詳しくはわかりません。あなたに取り入ることで後釜に成り代わり、この国を支配しようとしていたのか。とにかく彼女は危険です。今すぐにでも対処をくださねば、あなただけではなくこの地の未来が危ぶまれます」

 そこでこの場に来て初めてゲオルクはレーネを見た。彼にしては珍しく動揺しているのが伝わってくる。

 揺れている鉄紺の瞳を見て、否定しなければとの思いが全身を駆け巡る。ところが、口を開こうにも先を続けられない。

 なにを、どう言い訳するの?

 レーネがゲオルクを騙していたのは間違いない。今さら、どう言い繕えばいいのか。ましてやこの状況でレーネの言い分をゲオルクが信じるとも思えない。

「とにかく彼女を離せ。話は俺が聞く」

 ゲオルクが提案するも、ペッツァーは厳しい表情で首を横に振った。
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