瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
 レーネは城の内部に作った隠し通路から外に出て、一目散に森を目指していた。この抜け道の存在を知っているのは極一部の者だけでペッツァーは知らない。多少は時間が稼げるはずだ。

 外気は冷たく今日は雲に太陽が隠れているのもあって辺りは暗く気温があまり上がらない。今にも雪が降り出しそうだ。

 レーネは息を切らしてひたすら走る。近くにカインがいるはずだ。早く事態を知らせ、対策を練らなければ。

 村の存在を明るみにさせるわけにはいかない。とくに女性陣は、その見た目でどんな扱いを受けるか想像しただけで吐き気がする。

 先ほどの面々の態度でレーネは改めて思い知った。本来、自分は他者からああいった目で見られているのだ。

 だから隠してきた。隠れて生きてきた。受け入れられるわけがない。

『むしろ月だな。それも闇夜を照らす満月だ』

 ゲオルクの優しい笑顔と共に蘇った記憶が、レーネの顔を歪ませた。

 違うの。私はそんないいものじゃない。私じゃなくて――。

 葉を落とし、鋭い枝先だけを伸ばした木々は色をなくして不気味さだけを増幅させる。道らしい道はないが、レーネはその合間を抜けていく。

 体力がない体でレーネは走り続けていた。森に入ってからは前方にばかり注意を向けていたので、背後から近づく存在に気がつかなかった。

 勢いよく肩を掴まれたはずみでバランスを崩しそうになり、そのまま足がもつれて倒れ込む。相手はレーネに馬乗りになり影を作った。
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