瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
「どういうことなんだ?……俺をずっと騙していたのか?」

 怖いくらいに感情を押し殺したゲオルクが冷淡な声と表情でレーネを見下ろしていた。

 レーネは予想だにしない事態に目を見張るも、声が出せない。肩で息をして、気管を通り肺に送り込まれる空気は冷たく、呼吸する度に痛みを伴う。

 口の中は渇き、血の味が滲んでいた。

「どうしてなにも言わない?」

 ゲオルクはレーネの現状などかまうことなく問い詰める。そこに配慮や優しさなど微塵もない。黒く底光りする瞳に容赦はなかった。

「私、は」

 なんとか声を振り絞ったレーネだが首元にヒヤリとした感触がありそれ以上は続かなかった。ゲオルクが首に手をかけたのだ。彼はレーネに顔を近づけ端整な顔を歪ませる。

「全部嘘だったんだな」

 声も、表情も、言葉も、自分に向けられているすべてのものが敵意に満ちている。それを目の当たりにしてレーネの心は凍りついた。

 なにもかも壊したのは自分だ。そもそも壊れる以前にゲオルクの言うとおり、自分たちの間には嘘と偽りしかなかった。

 本当に?

 浮かんだ疑問はすぐに沈んだ。緩やかに首にかけられた手に力が込められ、意識と共に思考が遠のいていく。

 苦しくて視界が朦朧とするが、これで彼の気が済むのならいいのかもしれない。身勝手な贖罪(しょくざい)だ。

 しかし、レーネはペッツァーの言葉を思い出し、目を見開いた。
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