瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
 ふたりはレーネが隠れている机ではなく棚に足を向け、なにかの文献を探しはじめた。手を動かしながらザルドは沈黙を持て余すようにさらに相手に話しかける。

「それにしても、陛下が生まれつきあまり眠れない体質だというのはずっと改善されませんね」

 ザルドのなにげない発言にレーネは目を見張った。息を殺して気配を消しているにも関わらず、動悸が早くなり呼吸が乱れそうになる。

「それももうすぐ解決する」

 やっと答えた相手の声は年相応に低くくぐもっていた。ザルドと共にいたのは予想通り彼の父親であるバルドだ。父親の切り返しにザルドは目を丸くして問いかける。

「治療法が見つかったんですか?」

「ああ。早くしないと命にも(さわ)る。今までの優秀な王たちも早逝(そうせい)だったが、クラウス陛下でそれも終わりだ」

 自分の存在が見つかるかもしれないという不安はどこかに消え、恐怖にも似た心騒ぎでレーネの胸はしめつけられる。そんな彼女とは対照的にザルドは穏やかに安堵の笑みを浮かべた。

「それはよかった。ご結婚されたばかりですし、マグダレーネさまも喜びますね」

 バルドはなにも答えない。ややあってふたりは目当ての書物を見つけ、さっさと部屋を後にした。レーネはゆるゆると立ち上がり、覚束ない足取りで自室に戻る。

 部屋の前では、タリアがちょうどレーネの様子を窺いに来たところだった。

 鉢合わせし勝手に部屋から出たレーネを例に漏れず注意しようとしたタリアだが、それよりもレーネの顔色が真っ青だったことを先に心配した。
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