瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
 数日後、レーネは食事や休息もほぼ取らず朝から動きっぱなしだった。いくつもの城の尖塔の先にある部屋は、今はほぼ使われていない。

 それをひとつずつ長い階段を上っては訪れ、中を確認していくというのを繰り返している。

「マグダレーネさま、お待ちください」

 そんなレーネを、息を切らし気味にタリアが後を追いかけてくる。ここのところ躍起になり、城のあちこちを駆け回るレーネをタリアなりに心配していた。

 必死さは逆に自分を痛めつけているかのようにタリアの目には映る。体調はもちろん精神状態も(かんば)しくなく、レーネの表情は(かげ)り、顔色もよくない。

 さすがに見ていられなくなったタリアが、ひとりでゆっくり休んだ方がいいのでは、と申し出た。それを素直に受け、ここのところレーネは夜を自室で過ごしている。

 その間も、彼女は短剣を探し続けていた。けれど見つからない。

 そして今、一番端の尖塔の部屋を見終え階段を下りてきたところでレーネは大きく息を吐き、ひんやりとした壁に背中を預けた。

 タリアがレーネを気遣うも、彼女の言葉はレーネには届かない。薄暗く光もほぼ通らないここは空気も薄く感じる。

 わかっている、こんなところにあるわけがない。人は大事なものを隠すとき、自分の手の届かない場所を選択するのは稀だ。

 なくなっていないと確認するために何度も行き来するところか、自然と自分の身近におくはずだ。

 なにか、なにかヒントはないのか。

 レーネは重い頭で考えを巡らせる。そのとき、なにげなくクラウスの言葉を思い出した。

 そういえば、あのとき彼はどうしてわざわざあんなことを……。

 気にも留めず聞き流していたが、今になって妙な引っ掛かりを覚える。

 まさか。

 レーネは大きく目を見開き、続いて薄暗い尖塔の下から移動を始める、直感で突き動かされ向かうのは、レーネにも馴染みのあるあの部屋へだ。

『俺は隠し事はするが嘘はつかないんだ』

 それが本当なのだとしたら。
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