瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
 そっとドアを開け、人がいないのを改めて確かめてからレーネは部屋に足を踏み入れる。

 ここはクラウスの自室だった。さすがにタリアは中に入らず部屋の外で待機している。レーネも毎夜通っていたが、最近は来ていなかった。

 改めて昼間に見渡してみると、内部の色がはっきりと目に映る。国王の自室だというのに、派手さはなく落ち着いた印象だ。いかにも彼らしい。

 遠目にベッドを見た後、レーネは書斎部分に近づいた。そしてゆっくりと机の引き出しを開けていく。執務室のときとは違い、今度は一段ずつ丁寧に中を確認していく。

 ここはレーネがアルント城に来た際に、一番最初に確認した場所だ。あのとき、それらしきものはなにもなかった。だが……。

 一番上の広い引き出しを開けた際、レーネは思わず息を呑んだ。革製の長方形の箱は初めて見るが、筆入れほどの大きさにレーネの第六感が働く。

 慎重に箱を開けると、ずっと探し求めていたものがそこにはあった。たしかに存在したのだ。夢ではない。

 言い知れぬ懐かしさが込み上げるのと同時に、自分が背負っている運命を改めて実感する。

 これでようやく終わりにすることができる。

 長い時を経て、あの黄金の短剣はレーネの手の中に返ってきた。
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