瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
鈍い音と硬い感触。ゆるやかな風に乗ってひらひらと葉が舞い落ち、止まっていた時が動き出す。
レーネは柄から手を離せないまま呆然としていた。刀身が食い込んだ先はクラウスの左胸からわずかに横にズレた木の幹だった。
「なん、で」
「お前こそどうした? 土壇場で怖気づいたか?」
無意識に漏れた言葉には、冷たい返事がある。レーネは動揺が隠せないでいた。
どういうつもりなのか。剣の扱いにも慣れているクラウスならレーネの刃を避けるくらい容易いはずだ。そのまま返り討ちにすることさえも。
うつむいて混乱していると、不意に頤に手をかけられて強引に上を向かされた。
「神から与えられた力から解放されたいなら、俺にすべてを押しつければいい」
先ほどまで浮かべていた笑みは消え、クラウスは無表情でレーネを見下ろす。彼の考えも感情も読めない。けれどクラウスの言い分はもっともだ。
「後悔しているんだろ?」
続けて発せられたクラウスの短い問いかけは、蓋をしているレーネの心の奥底まで深く届く。瞬きひとつせず硬直し、溢れてくるなにかと葛藤しながらレーネはおずおずと口を開いた。
「……ええ、死ぬほどしているわ」
皮肉めいた言い方に対し、声は震えている。耐えきれず、言い切ってからレーネの顔が切なげに歪んだ。
「私の運命に……あなたを巻き込んでしまったことを」
その言葉にクラウスは大きく目を見張り、逆にレーネは伏し目がちになった。言うつもりはなかった思いが、堰を切ったように流れ出す。
「私は傲慢で、自分のことしか考えていなかった」
神から与えられた呪いにも似たこの力を押しつけるのに、相応しい相手を選んだ気になっていた。
優秀で出来た人間が王となり、この力を引き継げば本人も民も幸せになると勝手な理想を押しつけた。
レーネは柄から手を離せないまま呆然としていた。刀身が食い込んだ先はクラウスの左胸からわずかに横にズレた木の幹だった。
「なん、で」
「お前こそどうした? 土壇場で怖気づいたか?」
無意識に漏れた言葉には、冷たい返事がある。レーネは動揺が隠せないでいた。
どういうつもりなのか。剣の扱いにも慣れているクラウスならレーネの刃を避けるくらい容易いはずだ。そのまま返り討ちにすることさえも。
うつむいて混乱していると、不意に頤に手をかけられて強引に上を向かされた。
「神から与えられた力から解放されたいなら、俺にすべてを押しつければいい」
先ほどまで浮かべていた笑みは消え、クラウスは無表情でレーネを見下ろす。彼の考えも感情も読めない。けれどクラウスの言い分はもっともだ。
「後悔しているんだろ?」
続けて発せられたクラウスの短い問いかけは、蓋をしているレーネの心の奥底まで深く届く。瞬きひとつせず硬直し、溢れてくるなにかと葛藤しながらレーネはおずおずと口を開いた。
「……ええ、死ぬほどしているわ」
皮肉めいた言い方に対し、声は震えている。耐えきれず、言い切ってからレーネの顔が切なげに歪んだ。
「私の運命に……あなたを巻き込んでしまったことを」
その言葉にクラウスは大きく目を見張り、逆にレーネは伏し目がちになった。言うつもりはなかった思いが、堰を切ったように流れ出す。
「私は傲慢で、自分のことしか考えていなかった」
神から与えられた呪いにも似たこの力を押しつけるのに、相応しい相手を選んだ気になっていた。
優秀で出来た人間が王となり、この力を引き継げば本人も民も幸せになると勝手な理想を押しつけた。