瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
『自分の生き方は自分で決める。そう何度もいらない』

 そんなものを彼が望んでいないと、とっくに知っていたのに。

 レーネは奥歯を噛みしめる。胸が千切れそうに痛むのは罪悪感か。この告白は懺悔なのか。……わからない。

『陛下が生まれつきあまり眠れない体質だというのはずっと改善されませんね』

『ああ。早くしないと命にも障る』

 レーネの寿命は少しだけ延び、熟睡とまではいかなくても微睡(まどろ)む程度はできるようになった。それはなぜなのか。事実を突きつけられるまで、深く理由を追求できなかった。

「自分の願いを叶えるために、私はあなたを利用したの」

 そしてずっと苦しめている。もう終わりにしないと。

『終わらせたければ、それを手に入れるか。誰か他の者に同じやり方でこの力を与えよ』

 “それ”ってなに? 

 遠い昔、契約した神からの言葉だ。結局もうひとつの方法はわからないままここまできた。なんであれ、自分には手に入らないものなのだろう。もう自分たちにはこのやり方しかないのだ。

 レーネは木の幹に刺さったままの短剣から手を離し、静かにうしろに下がった。次に顔を上げ、クラウスに微笑みかける。

「その短剣を私に突きさして、長年の恨みを晴らせばいい。この幕引きは私が決めたの。すべてをあなたの思い通りにはさせない」

 事実でありレーネなりの精一杯の虚勢だ。本当はアルント城へ連れてこられたときから、クラウスの手によっていつ短剣を突き立てられるのか、気が気ではなかった。
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