瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
 やがて白金の枠に縁取られた木製の扉の前まで来ると、クラウスはドアを開けた。中から水分を含んだ生温かい空気が漏れだしレーネたちを包む。

 白い石造りの浴場は広く、レーネがいつも使っているものとは明らかに違う。ここは国王陛下専用のものだ。

 金で施された王家の紋章が目に入り、豪華な装飾も含めあちこちに視線を飛ばしていると、突然体に回されていた腕の力が緩められる。

 下ろしてもらえると思ったのも束の間、レーネは服を着たまま浴槽の中に身を沈めていた。

 広々とした浴槽から勢いよくお湯が溢れる音は贅沢そのものだ。みるみる衣服が色を変えて体がずっしりと重い。

 冷えていた体が急激な温度変化についていけず、指先はお湯に反応し火傷したかのようにじんじんと痺れる。

 呆然とするレーネをよそにクラウスも服を着たまま湯船につかり、ふたりは向き合う形になった。

「本当に手がかかる……」

 呆れた口調のクラウスに、いつもならすかさず反論するところだが、まだ現状についていけないレーネは瞬きをして目の前の男を見つめる。

 クラウス本人は、鬱陶しそうな表情で、水が滴る自身の前髪をゆるやかに掻き上げる。癖のない金色の髪に骨張った長い指が滑り、仕草ひとつひとつに色気が漂う。

 国王ではなくとも十分に目を引く相貌だ。ついまじまじと見つめていると不意にクラウスと目が合いレーネの心臓は小さく跳ね上がった。
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