瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
『ただし特別な存在となったとき、そなたは人間としてもっとも大切なものを……を二度と得られなくなる』

 ああ、始まりはここからだった。

 何度も繰り返して記憶をたどったが、上手く引き出せない。

『終わらせたければ、それを手に入れるか。誰か他の者に同じやり方でこの力を与えよ』

 向けられる短剣ばかりを気にしていた。矛盾している。二度と得られなくなるものを、どうすれば手に入れることができるのか。

 永遠に抜け出せない回廊をひたすら歩き続けている。出口はどこにあるのか、そもそも存在するのか。不安が駆け巡り、うずくまりそうになる。

 私はやっぱりずっとひとりで……。

『愛している。この命を懸けるほどに』

 次の瞬間、急に視界が明るくなり続けて頬や耳の冷たさに驚いた。瞬きをして自分が泣いているのだと気づき、レーネは顔を動かそうとする。

「どうした? 大丈夫か?」

 すぐそばで問われて視線を向けると、クラウスが心配そうな顔でレーネを見つめていた。そっと指先や手のひらでレーネの涙の跡を拭っていく。

 レーネはそれをおとなしく受け入れながら、彼の体温がやけに高く感じるのは、それほど自分が冷えているからなのかとぼんやり考えた。

 いや、なにも身に纏っていないから当然かもしれない。改めて現状を把握し、レーネは羞恥心に身を縮めた。夜が終わり部屋の中も明るくなりつつある。
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