瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
エピローグ
 どこまでも澄み渡る青空は、できればノイトラーレス公国まで続いていればいい。レーネは行儀悪くソファに足を乗り上げ、背もたれに越しに見える窓からぼんやりと外を眺めていた。
 
 先ほどから初夏の爽やかな風が青葉の瑞々しい香りを運んでくる。なびく黒髪を無意識に手で押さえたとき、部屋にノック音が響いた。

 振り返り返事をしようとするとその前に扉が開く。

「横になっていなくていいのか?」

 相手の開口一番の台詞にレーネは思わず苦笑した。

「大丈夫。心配しすぎよ」

 クラウスはゆっくりと中に足を踏み入れレーネのそばまで歩み寄ると、彼女の隣に腰を下ろした。そして遠慮なく彼女の頭に触れる。

「そうは言っても、あまり顔色がよくない」

「そんなことない。たた少し残念だなって」

 寂しそうに告げるレーネに、クラウスが複雑そうな面持ちになった。なにに対してかを聞くべきか迷っていると、彼の思考を吹き飛ばすかのごとくレーネはひときわ明るい声で続ける。

「だって妹の晴れ舞台よ? 私もゾフィの結婚式に出席してお祝いしたかったの!」

 予想外の回答にクラウスは目を丸くした後、安堵混じりのため息をついて微笑んだ。

「挙式前に一度、会いに来るそうだ」

 その答えに、レーネは花が咲いたように笑顔になる。

「本当!? よかった。……それにしても、ゾフィの情報はあなたからばかりね」

「なんだ、妬いているのか?」

 レーネの頭を撫でながら、からかいを含めて尋ねると彼女はあっさり頷いた。
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