瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
「うん。私は実の姉なのに」

「そっちか」

 呆れた口調のクラウスに対しレーネはおかしそうに笑う。そのまま彼に身を寄せて胸に顔を埋めると、背中に腕を回された。優しい抱擁を受け入れレーネの心は満たされていく。

「嘘。本当は嬉しいの。私がいなくてもあの子が立派な君主になっていて」

 レーネもわかっている。ゾフィは私情を挟まずにノイトラ―レス公国の君主としてアルント王国の国王であるクラウスとやりとりしているだけだ。

 ゾフィにとってレーネは姉である前にクラウスの妻だ。ならば国王を優先するのは当然だった。それでも彼女たち姉妹の絆が弱くなったわけではない。

 私がそばにいなくても、ゾフィはもう大丈夫なんだ。

 ゾフィの結婚相手は幼い頃から姉妹に仕えていたレオンだった。レーネがいなくなり()り所をなくしたゾフィを、レオンはいつも以上に気遣い極力そばにいた。

 さらに十八歳の誕生日を迎えて片眼異色ではなくなり、取り乱して落ち込むゾフィの支えになったのもレオンで、ゾフィの中で彼が特別な存在だと自覚するまでにそう時間はかからなかった。

 ただレオンがゾフィの気持ちを受け止めるまで少し時間がかかったのは致し方ない。

「まさかゾフィとレオンが結婚だなんて……」

 たしかにゾフィはレーネよりもレオンに懐いていたし、彼もまた女王となるゾフィをレーネ以上に気にかけていた。

 しかし、それはいわば保護者みたいな存在だとレーネは勝手に思っていたのだが。

「そうか?」

 考えを巡らせているレーネに声がかかる。レーネはちらりと上目遣いにクラウスを見た。
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