瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
「もう運命に振り回されるのはやめろ」

 凛とした声は、思考を中断させすべての意識を持っていかれる。見ると、鉄紺の双眼がレーネをまっすぐに捉えていた。

「なににも縛られず、レーネが自分で決めた道を歩いていけばいいんだ」

 迷いのなさは声だけではなく眼差しからも伝わってくる。

 どんなに人生を繰り返しても得られる結果は一緒だった。諦めるのにも慣れていた。けれど――

「ずっと俺のそばにいろ」

 レーネの心も心臓も鷲づかみされる。それを悟られたくなくて、わざとおどけてみせた。

「なにそれ、命令?」

 笑みで返したが相手は真剣な表情を崩さない。おかげでレーネも笑いを収め、クラウスをじっと見つめる。

「求愛、だ」

 レーネが目を丸くしていると、唇が重ねられ、言葉通り求めるような口づけが始まる。瞳を閉じてレーネは素直に受け入れた。

 彼といるとつい願ってしまう。欲しいものが増えていく。その一方で、初めてのことばかりに戸惑い、今までの知識や経験などほとんど意味がない。

 それでもひとつずつ知って、共に生きていきたい。何度もいらない。たった一度しかないからこそ強い思いは力になる。

「……ひとつ、聞いてもいい?」

 キスの合間に吐息混じりにレーネは尋ねる。ずっと聞きたかったことがあった。

「どうして私がわかったの?」

 この城の地下牢に囚われたとき、てっきりクラウスは片眼異色で、力を持っていると噂されているゾフィを本物のフューリエンだと思うと予想していた。現に前国王もそうだった。片眼異色は大きな目印だ。
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