瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
行きの馬車も気まずい息苦しさがあったが、帰りは帰りで相当なものだ。ルディガーは隣にいる人物と、行きと同じく対面に座る国王とを目だけ動かし、交互に見た。
今、ルディガーの隣にはバルドではなくレーネが座り、自分の方でも正面に座るクラウスでもなく、抵抗を示すかのようにずっと窓の外に目を向け、その顔を見せないようにしていた。
彼女を連れて帰ることに最後まで反対したバルドは、クラウスの命令で今は別の馬車に乗っている。
クラウスは肘をついて姿勢を崩しながらも、レーネの横顔を食い入るようにして見つめていた。
なんとも言えない重苦しい雰囲気に、ルディガーは思わず溜め息をつきそうになった。そのとき、今までずっと口をつぐんでいたレーネがぽつりと呟く。
「……レオンが、負けるなんて」
ひとり言にも思えたが、この機会にと言わんばかりにクラウスが律儀に返す。
「“勝負”だったからな。殺り合ってたらわからない」
その言葉でようやくレーネは正面にいる男に顔を向けた。そして考えを巡らせる。
孤児でならず者だったレオンは、幼い頃にゾフィとレーネの父に剣の腕を買われ、娘たちのボディガードとして雇われた。
ゾフィとレーネが一時アルント城に囚われ、行方不明になった件を受けてだ。レオンの境遇に哀れみを感じたのもあるのだろう。
レオンは恩を返すべく日々剣の腕を磨き、ゾフィとレーネの忠実な騎士となった。
そんなレオンが数年前から左目に違和感を覚え、微妙な見えづらさを感じているのはゾフィとレーネを含め、ごく一部の人間しか知らない。
今、ルディガーの隣にはバルドではなくレーネが座り、自分の方でも正面に座るクラウスでもなく、抵抗を示すかのようにずっと窓の外に目を向け、その顔を見せないようにしていた。
彼女を連れて帰ることに最後まで反対したバルドは、クラウスの命令で今は別の馬車に乗っている。
クラウスは肘をついて姿勢を崩しながらも、レーネの横顔を食い入るようにして見つめていた。
なんとも言えない重苦しい雰囲気に、ルディガーは思わず溜め息をつきそうになった。そのとき、今までずっと口をつぐんでいたレーネがぽつりと呟く。
「……レオンが、負けるなんて」
ひとり言にも思えたが、この機会にと言わんばかりにクラウスが律儀に返す。
「“勝負”だったからな。殺り合ってたらわからない」
その言葉でようやくレーネは正面にいる男に顔を向けた。そして考えを巡らせる。
孤児でならず者だったレオンは、幼い頃にゾフィとレーネの父に剣の腕を買われ、娘たちのボディガードとして雇われた。
ゾフィとレーネが一時アルント城に囚われ、行方不明になった件を受けてだ。レオンの境遇に哀れみを感じたのもあるのだろう。
レオンは恩を返すべく日々剣の腕を磨き、ゾフィとレーネの忠実な騎士となった。
そんなレオンが数年前から左目に違和感を覚え、微妙な見えづらさを感じているのはゾフィとレーネを含め、ごく一部の人間しか知らない。