瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
 硬く瞼に閉ざされていた黄金の瞳が姿を現したとき、部屋は耳鳴りがするほどの静寂に包まれていた。

 レーネは慎重に身を起こし、すぐそばで眠る男を確認する。そろそろ深い眠りに入る頃だ。春先とはいえ朝晩はまだ冷えるうえ、今の自分はなにも身に纏っていない。

 シュミーズをわざわざ着るのも手間で、手っ取り早く掛け布を羽織り、レーネはベッドを抜け出す。

 足音も息も殺して部屋の書斎部分に近づくと、机の引き出しを開けたり本棚の奥を覗くなどして目当てのものを探す。

 もしかしたらここに……ここにあるかもしれない。

 心臓がドクドクと(うるさ)く早鐘を打つ一方で、音を立てないよう細心の注意を払いながら祈る気持ちで中を確認していく。

「そこにお前の探しているものはないぞ」

 弾かれたようにレーネは引き出しから手を離し、声のした方に体を向けた。驚きのあまり息が止まりそうになる。

 クラウスはベッドの中で枕に肘を突き、軽く身を起こした状態で優雅に微笑んでこちらを見ていた。

 手のひらで右目を覆った跡、その手で髪を搔き上げて息を吐く。続けてゆっくりと起き上がり、ベッドから出てきた。レーネとは対照的に彼はシャツを着たままだ。

 決定的な現場を見られ、蛇に睨まれた蛙となったレーネは言葉ひとつ発せずに固まる。無意識に首元で掛け布の両端を押さえている手に力が入った。

 今度こそ地下牢行きか、侮蔑混じりの文句が投げかけられるのか。警戒心と緊張で瞬きひとつできず、近づいてくる王の顔をじっと見つめる。
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