瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
 ところがレーネの予想はどれもはずれ、クラウスはまっすぐにレーネの傍まで寄ると彼女の腰に手を伸ばし、ひょいっと抱き上げた。

「なっ」

「まったく。意外と従順だと思ったらそれが狙いか。油断も隙もない」

 怒っているというより呆れている声色だ。彼は迷いなく再びベッドに足を向ける。

「まぁ、しおらしいお前も悪くはなかったが」

 飄々(ひょうひょう)と告げられ、レーネの頬が怒りと羞恥で赤く染まった。

「下ろして!」

 今になって足をばたつかせ抵抗を試みるが無意味だった。薄い布越しでも、腰や太ももを抱く大きな手に力が込められたのが伝わる。

 そちらに意識を取られていると、突然高かった視界が暗転し背中にベッドの感触がある。

「ゲオルク!」

 反射的に抗議の声をあげたレーネの視界は天蓋が映り込んだかと思えば、すぐに端正な顔立ちに切り替わる。二人分の体重を受け、ベッドがわずかに沈んで軋んだ。

「クラウスだ」

 レーネは眉をひそめて自分に覆いかぶさる男の顔を睨めつけた。けれど相手は物ともしない。

「これまでも、そうやって欲しい情報を得てきたのか」

 やれやれといった面持ちで尋ねられ、レーネは言葉に詰まる。どうやらクラウスは、油断させるためにレーネが自分を受け入れたのだと思っているらしい。

 そう理解して、すぐさま違うと否定しそうになるのをレーネはすんでのところでやめた。言ってどうなるのか。そもそも信じるわけがない。
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