瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
 結果的に見ればどう取り繕っても同じだ。むしろ、そこまでレーネの行動を予測していたとするならば、相手もわかったうえで乗ってきたことになる。

 レーネは唇をかみしめた。少しでも心を通わせられたと思えたのは自分だけだったという現実が情けなくて悔しい。

 どこまで私は甘いの? なにを期待していたの? 

 結局、王の手のひらのうえで踊らされていただけだ。

 レーネは、ふいっと顔を背ける。

「……だったら、どうなの?」

 好きに受け取ればいい。そう思い半ば投げやりに答える。すると顎に手をかけられ、強引に上を向かされた。至近距離で再びふたりの視線が交わる。

 クラウスは微笑んでいた。蠱惑(こわく)的で、それでいて冷酷さを伴っていることに気づき無意識にレーネは身震いする。

 彼の長い指先がレーネの頬を滑った。

「どうもしないさ……今までのことは。だが、今後は絶対に許しはしない」

 言い切るとクラウスはレーネの首筋に顔を(うず)める。柔らかい髪が顔の輪郭を撫で、肌に吐息を感じた。

 思わず身をよじりそうになったが、次にレーネの神経すべてがそこに集中し、体を強張らせる。クラウスが喉に歯を立てたからだ。

 剣を突き立てられたような錯覚に陥り、呼吸さえ止める。まさに肉食動物に捕まり、今にも息の根を止められそうな小動物だ。

 完全に自分の命は相手の手中にある。

 硬直していると、薄い皮膚にさらに強く歯を押し当てられ、ざらついた舌が這わされる。
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