瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
 脳の認識が追いつかない。続けてきつく吸われ、レーネは痛みで顔をしかめた。くっきりと赤い痕が残り、それを確認してからクラウスはおもむろに顔を上げる。

 だいぶ目が慣れたとはいえ、部屋の中は薄暗い。しかし淡い明かりの中で浮かぶ王の目は獰猛(どうもう)さが揺らめき、見る者を()てつかせる。

「誰にも触らせない。お前は俺のものなんだ」

 呆然としているレーネにクラウスはしっかりと言い聞かせた。そして彼はレーネの手首を掴んで押さえると、再び彼女の首筋に赤い痕を残していく。

「っ、やだ……」

 あまりの遠慮のなさにレーネは声をあげ抵抗する。場所が場所なだけに痕を残されても困る。しかし白い肌には面白いほど簡単に赤い花が咲いた。

 一度顔を上げ、クラウスは皮肉めいた笑みでレーネを見下ろす。

「人には消えない痕を残しておいてか?」

 その発言にレーネは大きく目を見開き、違う意味で固まった。それを見て言葉を発した本人もすぐに失言だったと後悔する。

 一瞬でふたりを包む空気が重くなり、レーネは無駄な抵抗は一切せず、唯々(いい)としてすべてを受け入れる姿勢を見せた。

 ところがレーネの額にクラウスが自分の額を重ね訴えかける。

「そんな顔をするな。お前を傷つけたいわけじゃない」

 いつになく切羽詰まった声と表情に、レーネの心が波打ち戸惑いが広がっていく。そんな中、手首を強く掴んでいた手が離れ、レーネの頭をそっと撫でだした。
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