瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
 目をぱちくりとさせ様子を窺っていると、どういうわけか不意に左肩に手をかけられる。軽く浮かされ心持ち右側に体を傾けられるが、相手の意図が読めない。

 おとなしく従うと、斜めになった体勢のおかげで長い黒髪が滑り落ち、白い首元が露わになる。そこへ静かに口づけが落とされた。

「やっ」

 体が浮き上がっていたのもあり、レーネはそのまま体を(ひるがえ)して隠れるようにうつ伏せの姿勢を取った。纏っていた掛け布はいつのまにか取り払われ、自分だけ心許(こころもと)ない姿をさらしている。

 今さら羞恥心に襲われていると、背にしていた気配が近くなり、うなじに生温かい感触があった。驚きで言葉を失っている合間に、肌に添わされた唇がゆっくりと下りて、肩甲骨辺りを軽く吸う。

「っ、んっ……」

 今度はさすがに声が漏れた。先ほどと違うのは、痕はつかないほどの塩梅(あんばい)で乱暴さは微塵もない。むしろ丁寧に優しく刺激され、なんだかレーネは泣き出しそうになった。

 それをぎゅっと目を瞑って懸命に耐える。しかし視界を遮った分、他の箇所に余計に神経が集中し、ますます自分の置かれた状況を意識せざるを得なくなる。

 晒している肌の至るところに音を立てて口づけられ、触れてくる骨張った手は熱を持ったかのように熱い。唇で、舌で、吐息で、肌をかすめる髪にさえ反応し、皮膚が勝手に粟立(あわだ)っていく。

 わからない。相手がなにを考えているのか。顔が見えないからだとか、そういう話じゃない。苦しくて、じわじわと追い詰められていく一方でもっとと求めそうになる。
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