瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
 情けなさと共に声も抑えたくて、ベッドに顔を埋めてシーツを掴んでいると、その手に大きな手が重ねられた。

「レーネ」

 伝わる体温と耳元で吐息混じりに囁かれた声には、懇願にも似た余裕のなさを感じる。

 すぐそばにクラウスの顔があるのに、表情を確認することもできない。それどころか耳たぶに口づけを落とされ、軽く甘噛みされて心が掻き乱されていく。

「ふっ」

 くぐもった声が漏れ、とにかく嵐が過ぎ去るのを待とうと身を縮める。すると相手の動きが急に止まった。

 密着していたはずの気配さえなくなり、レーネはおそるおそる埋めていた顔を浮かせ、首を少しだけうしろに動かす。

 片方の瞳にクラウスの姿を捉えると、彼は切なげに顔を歪めてレーネを見下ろしていた。いつもの不遜さはなく、レーネは信じられない気持ちで瞬きを繰り返す。

 そのはずみで目を覆っていた薄い膜が涙として零れそうになった。それを拭うかのごとくクラウスはレーネの目尻に唇を寄せる。

 反射的に目を閉じ再び彼女の金の瞳が姿を現したとき、ふたりの視線がぶつかる。時が止まったような感覚。

 気づけば唇を重ねられ、レーネもそれを受け入れていた。何度も触れるだけの口づけが繰り返され、まるで大事なものを扱うかのようにクラウスの手はレーネの頬や髪を優しく撫でる。

 私を飼い慣らしたいの? 懐柔させたいだけ?

 愛されていると錯覚するキスに溺れていく反面、レーネの胸には膿んだような痛みが広がっていった。
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