瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
「マグダレーネさま?」

 タリアが心配そうに声をかけてくる。ここで自分の思いやクラウスとの関係を告げたところでどうにもならない。レーネは諦めて、タリアの指示に従った。

 豪華な朝食が用意され、着ていた服は地味すぎると再度着替えるよう要求される。いつも整える側だったのに鏡台の前に座らされ他人に黒髪を編んでもらっているのが不思議でたまらない。

「手筈を整え次第、陛下から正式に結婚の報告がなされると思います。自国とあまり変わりはないでしょうが、早くここでの生活に慣れてくださいね」

 タリアの言い分から、レーネが侍女として振る舞っていたとは知らされていないのだと推測する。たしかに国王陛下と結婚するなら余計な事実だ。レーネはノイトラーレス公国の君主の姉、王女として認識されていればいい。

 複雑な思いを抱えていると、タリアが思い出したように付け加えてくる。

「陛下からの(ことづ)けを(うけたまわ)っています。『城の中ならどこへ行っても、なにに触れてもかまわない。自由に過ごせ』と」

 レーネは目を見開く。クラウスはレーネが探し物をしていると知っていた。そのうえでこの伝言をわざわざ残したのだとしたら、相当な自信だ。宣戦布告とも捉えられる。

「ただし、ひとりでは行動させられません。私が常にお供しますからね」

 まずは城の内部を案内すると意気込むタリアをよそに、レーネは悔しさで唇を噛みしめ、目的を達成すべく動き出した。
< 34 / 153 >

この作品をシェア

pagetop