瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
「で、どうなんだ、彼女とは? 無事に和解できたのか?」

 なんとも軽い口調でルディガーはクラウスに尋ねた。昨日のノイトラーレス公国訪問に関する報告書を作成し、王に確認を乞うため執務室を訪れていたのだ。

 アルノー夜警団のアードラーであるルディガーがわざわざ書類提出のためだけに動くのは稀で、ましてや直接国王になど通常では考えられない。

 しかし昨日の一件に関してはありのままを記載して残すわけにはいかなかった。

 国王が他国で不必要に剣を抜いたことやレーネの言動など、ある程度の事実の修正が必要で、そのためにルディガーは誰を通すことなくこうしてクラウスの元へ赴いている。

「和解?」

 書類に目を通していたクラウスが顔を上げ、机を挟んで目の前に立つルディガーを見遣った。

「相当、険悪な雰囲気だったろ。無事に夜を過ごせてなによりだ」

 やれやれと溜め息混じりに呟かれ、クラウスは笑う。

「かなりの痛み分けだったがな」

 どういう意味なのか、深く追及するのも想像するのも避けたい。ここはどちらに同情するべきなのか迷うところだ。ルディガーはなんとも言えない面持ちになる。

「あまり強引なことをするなよ、逃げられるぞ」

「逃げはしないさ」

 ルディガーの忠告に対し、クラウスは間髪を入れずに答える。あまりにもはっきりと断言するのでルディガーは彼を二度見した。王の表情は確信に満ちている。

「あいつがおとなしくここに来たのは、果たすべき目的があってだからな。それが叶うまでは逃げやしないさ」

「そういえば彼女、前国王の時代に妹と共に地下牢に囚われていたことがあるんだって?」

 曖昧な情報だが、ノイトラーレス公国を訪れる前に聞いた話をルディガーは口にする。
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