瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
 しかしゾフィに関しても同じように扱っていいものか。彼女が国を(おこ)し、君主となったのは己の運や才覚だけだとは思えない。

 ルディガーは眉をひそめて言い返す。

「やけにはっきりと言い切るな」

「言い切るさ。それにルディガー、お前は大きな勘違いをしている」

 思わぬ切り返しにルディガーは目を丸くした。クラウスはルディガーから視線をはずし、おもむろに口を開く。

「伝説のフューリエンはけっして自らが前に立つことはなく、最後まで裏で初代王を支え、彼を偉大なる王にするのに徹した」

 本来なら歴史の裏に消えてもおかしくない彼女が、今のように初代王と同等の存在として扱われるようになったのは後世の人間の影響が大きい。

 口を挟みはしないが、それはルディガーも承知している事実だ。続けてクラウスは口角を上げ、改めてルディガーに問いかける。

「ともすれば、姉妹であり片やその身分を隠して妹に侍女として尽くし、片や国を立ち上げ女王にまで上り詰めた。本当にフューリエンを彷彿とさせるのはどちらだ?」

 クラウスの言いたいことを汲んで、ルディガーは大きく目を見開く。

「まさか……」

「それにフューリエンは左右の瞳の色が異なるのを特徴として挙げられるが、それは正確ではない。フューリエンは左の瞳の色が金色だったんだ。なら、最初からもう右目も金色だった場合はどうなる?」

 ルディガーはもはやなにも言えなくなった。クラウスは遠くを見つめる。

「鷲のように聡明で、闇夜を照らす月のごとく慈悲深い……。ずっと探し求めていた、もう逃がす気はない」

 固い決意は不敵な笑みと共に紡がれた。
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