瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
 ふたつ年下の妹が生まれたとき、レーネは体が震え、足元から崩れ落ちそうになった。畏怖か歓喜か、はっきりとしない複雑な感情が膨大な記憶と共に渦巻く。

 まだ、おぼろげにしか開かない赤子の瞳の色は左右で異なっていたのだ。右目は穏やかな丁子(ちょうじ)色に対し左目はくっきりとした金糸雀(かなりあ)色。

 この王国の成立に欠かせない人物として語り継がれているフューリエンを彷彿させる双眸だった。さらに、柔らかな金の髪や色白の肌と誰が見ても美少女になる素質を併せ持っている。

 ゾフィと名付けられた妹は、外貌に違わず明るく朗らかで誰もに愛され目を引く娘として成長していった。

 レーネは常に彼女の傍を離れず、あらゆる話を聞かせ知識を与えた。

『来年はきっと凶作の年になるから、今のうちに貯蓄庫を穀類でいっぱいにしておかないと』

『わかった。お父さまに伝えてくる!』

 無邪気に父に伝えにいくゾフィの背中をレーネは切なげに見つめる。父は身分ある貴族の出身で、ここら辺の領地を統括していた。

 彼が領主として慕われていたのは、元々の人望もさることながら、様々な指示が的確で幾度となく村の危機を救ったからだ。

 農作物に関する知識や流行病の対策、さらには天災についての予言など。それらがどうも彼の娘からもたらされるものだと周りも勘づきはじめた頃にはゾフィは特別な存在となっていた。

『フューリエンの再来』『フューリエンの生まれ変わり』

 片眼異色なのも加わり、そんなふうに一部の人間の間ではゾフィを噂し、有り難がった。

 その裏でレーネはひそかに、もしかするとこの家庭環境とゾフィがいれば、自分の望みは叶うかもしれないと淡い期待を抱いていた。
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