瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
 ソファの端にちょこんと腰掛けているレーネのそばにクラウスはゆっくりと近づく。わずかに髪が湿り気を帯びていて彼もすでに寝支度を整えていた。

 少しだけ間を空けてレーネの左隣に座ると、クラウスは長いレーネの髪先を軽く掬い上げて尋ねる。

「探し物は見つかりそうか?」

 からかい混じりの言い方に、レーネは眉をひそめて顔をふいっと背けた。

「どうしてわざわざ隠したりしたの?」

 もしかするとここにはないのかもしれない。そんな考えも過ぎるが、王家が手放すとも考えられない。

「……なぜだと思う?」

「なに? 嫌がらせ?」

 逆に問われ、レーネは不機嫌混じりに隣を見た。レーネの挑発などクラウスはものともしない。逆に訴えかけるような眼差しで返される。

「あれを探しているうちは、お前は俺のそばから離れない。違うか?」

 魅惑的な声は責めているのか、警戒しているのか掴めない。思わず思考を中断させられ、微妙な間合いは心をざわつかせる。なにかを返さなければとレーネは躍起になった。

「……実はもうここに存在していないって可能性は?」

 我ながらくだらない質問だと思う。ならば彼が自分に執着し、そばに置く理由もない。案の定、相手はかぶりを振った。

「心配しなくてもそれはない。俺は隠し事はするが嘘はつかないんだ」

「国王陛下としては立派な心がけね」

 軽い口調で返してレーネは溜め息をついて前を向いた。ぼんやりと部屋を照らす洋燈を見つめる。

 部屋の外には警護の人間もいるのだが、扉が重厚だからか気配もほぼ感じず、とにかく静かだ。
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