瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
 レーネは前を向き、うつむき気味になってからぐっと唇を噛みしめた。

「……違う。恋人というのはもっと心を通わせて、お互いに必要だと感じて……そばにいて触れ合うだけで心安らぐような……」

 体を重ねるのは、その後でいい。たどたどしくも自分の思い描く恋人像をレーネは口にしてみる。しかし、この男相手になにを意地になっているのか。

 冷静になると共に静寂に包まれ、レーネは居たたまれない気持ちになった。いつの間にか、髪に触れていた手も離れている。

「少なくとも、私にとっては……」

 沈黙に耐えきれず口火を切ると、不意にすぐ隣に気配を感じた。顔を上げようとした瞬間、突然の浮遊感が襲う。

「わっ!」

 膝下に腕を滑り込まされ横に移動し、なぜかレーネはクラウスの膝の上で横抱きされる形になっていた。

「な、なに?」

 混乱する頭で相手を見遣ると、思ったより近くで目線がぶつかる。鉄紺の中に沈む虹彩がかすかに揺れた。なにか機嫌を損ねたのか。

 無表情だったクラウスは、ふっと不敵に笑った。

「お前の望む恋人らしいことをしてみようかと」

 予想外の切り返しに、レーネは口をぽかんと開けそうになった。ところがすぐにからかわれているのだと気づく。そっと頭に乗せられた手を勢いよく払いのけた。

「そんなの必要ない! こういうのは試してするものじゃないわ」

 噛みついて拒絶するが、クラウスは無視してレーネを腕の中に閉じ込めた。
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