瞳に印を、首筋に口づけを―孤高な国王陛下による断ち難き愛染―
 体勢と体格差もあって上手く拒否できず、レーネはぎゅと身を縮める。抵抗すればするほど、面白がられるだけだ。

 どうせ彼にとっては嫌がらせのひとつに違いない。寝るのも同じだ。気持ちが伴わなくてもできるならこの行為にも意味はない。

 わかってはいてもレーネはどうしても受け入れられなかった。

「……やけに具体的に言うが、お前にはそういった相手がいたのか?」

 降ってきた声は意外にも嫌味っぽさはなく、むしろ素に近い感じがした。だからか構えていたレーネの心がいくらかほぐれ、素直に答える。

「恋人だって言われる人たちを見ていたらそんな感じなのかなって」

 レーネとゾフィの両親はとても仲睦まじく、いつもお互いに思いやって幸せそうだった。

「あとは、本に登場する恋人同士たちも……」

 そのとき話を聞いていたクラウスが突然吹き出したので、レーネはとっさに顔を上げた。

「な、なんで笑うの!?」

 意図せずレーネまで本来の調子で尋ねる。クラウスはおかしそうに目を細め、笑いを(こら)えていた。

 彼のこんな表情を見るのは初めてで、つい目を奪われてしまう。クラウスは目元に手をやり、笑いを収めると改めてレーネを見た。

「相変わらず愛や恋に関しては本の受け売りか」

「なっ!」

 思わぬ指摘にレーネの頭に血が上る。怒りか羞恥か原因ははっきりとわからない。

「わ、私だって」

 とにかく言い返そうとするが言葉が続かず、レーネは渋々押し黙った。クラウスの言い分はある意味、正しい。

 恋を知っていたら、本物の愛がわかっていたら、なにかが違っていたのかもしれない。
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